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執筆者の写真Hisashi Tomibe

若き日のアメリカ映画(24)

更新日:2022年3月18日




 クリスマスの日、仕事で鎌倉を訪れた。


 実は先週も鎌倉の山の上にある旧小林秀雄邸を訪れていた。


 しかし、今回は仕事、しかも厄介な部類のものだったので、昼過ぎに無事終わると、一杯飲りたくなった。向かった先は「奈可川」。ここは小林秀雄などの鎌倉文士がよく通った店で、中に入ると、白木のカウンターがまず出迎えてくれる。今回は若女将しかおられなかったが、ご主人ともども私のことを覚えて頂いており、居心地の良いひと時を味わった。


 ところで前回、初めて訪れた時は、80歳になるという女将さんとついつい話に夢中になり、また酒も必要以上に進んで、酩酊状態のまま電車に乗り込んだあと、気付いたら、渋谷方面ではなく、上総一ノ宮にいたのであった。つまり、二時間半ほど熟睡してしまったことになる。結局渋谷からはタクシーで帰る羽目に陥ってしまったのだった。

 今回はほろ酔い気分で店を出て、溢れる人波を取り戻した小町通りを歩いていたら、いつもは見過ごすだけの川喜多映画記念館の道しるべ、その矢印が呼んでいるような気がして、道を折れ曲がって歩いていくと、とても映画記念館とは思えない、平屋の和風建築が目の前にあった。企画展として、「崩壊と覚醒の70Sアメリカ映画」とあり、面白そうなので、200円払って足を踏み入れた。


 中はもう懐かしさの洪水。「イージー・ライダー」あたりから始まって、「真夜中のカーボーイ」、「時計仕掛けのオレンジ」、「ファイブ・イージー・ピーセーズ」、「ラスト・ショー」など、当時のポスターのオンパレード。凍っていた記憶の断片が少しずつ融解して甦ってくる。まだ高校生だったその頃、アルバイトで新聞配達をやっていた私は、稼いだ金で毎週のように映画を見まくっていた。そこにはすべてがあった。恋愛も、冒険も、社会も、歴史も、宇宙も、音楽も、何もかもが。どっぷりと映画の中の世界に入り込んだあとに外に出ると、その眩しい世界が非現実に思われ、日常感覚を取り戻すのに時間が掛かったものだ。

 ポスターを一通り見終わった頃にはすっかり酔いも醒め、あたりは既に薄暗くなっていた。手洗いに行って鏡を見ると、そこには、それから数十年経った今の自分がいた。たくさんの思い出を経験した遠い旅から急に戻って来たような気分を味わった。



*川喜多映画記念館のホームページはこちらです。


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